2012年5月8日火曜日

[6]怖い不整脈と怖くない不整脈|心臓|循環器病あれこれ|国立循環器病情報サービス


国立循環器病研究センター
臨床検査部長 鎌倉 史郎

「正しく怖がること・・・」 (寺田寅彦の言葉)
不整脈は、ほとんどが治せるようになった。抗不整脈薬も開発されている。

もくじ

正しく怖がることの大切さ

「正しく怖がる」ことの大切さを説いたのは、物理学者で随筆家の寺田寅彦です。人間のつくりだした、例えば車、電車、航空機など、どれひとつとっても操作を間違えれば、事故という危険が伴うのはいうまでもありません。

しかし、その仕組みをよく知り、どんなことが起こり得るかも知ったうえで、危険への備えをして使いこなせば、怖がる必要はなく、むしろこれほど便利なものはないと思われるでしょう。

これからお話しする「不整脈」は、心臓のリズムの乱れを意味します。というと、何か切実な感じを与えますが、不整脈こそ「正しく怖がるべきこと」なのです。

ただ感覚的に怖がるだけでは、日々、不安にさいなまれることになります。しかし、どうして脈が乱れるのか、その仕組みをよく知り、どう対処したらよいかもしっかり理解しておれば、やたらと怖がったり、不安にさらされたりすることもないのです。

不整脈とは?

不整脈とはどういう状態を指すのか、ということから、ご説明しましょう。

不整脈は、脈の打ち方がおかしくなることを意味します。この中には異常に速い脈(頻脈)や遅い脈(徐脈)も含まれます。

皆さんが初めて不整脈に気づかれるのは、ドキドキ動悸(どうき)がしたり、脈をとってみると、どうも異常に遅かったり、逆に速すぎたり、または飛んだり、不規則になったりしている時が多いのではないかと思います。

また、自分ではまったく気がつかないのに、病院で心電図をとると「不整脈が出ています」と言われて、わかる場合もあるでしょう。

「脈」とは、心臓から押し出される血液の拍動が血管に伝わって感じられるものです。もし心臓のリズムに異常が起きれば、脈は乱れてしまいます。では、そのリズムは何によってコントロールされているのでしょうか。

心臓は筋肉でできた臓器で、その筋肉にかすかな電気が流れて興奮し、動く仕組みになっています。

心臓でどう電気が伝わっていくかを示したのが<図1>です。心臓の上の方にある「洞結節」というところで電気がつくられ、電気の通り道(これを「伝導路」と呼びます)を通って、心臓全体に流れ、筋肉が収縮するようになっています。

例えば、洞結節で電気が発生しない、または別の場所から電気が流れてしまうと、心臓が規則正しく興奮しなくなります。つまり、不整脈は心臓に流れる電気の異常や刺激が伝導路をうまく伝わらないことを意味します。

図1 心臓での電気の伝わり方
洞結節で発生した電気は房室結節を通って心室に伝わる

なぜ不整脈が起こるのか

不整脈は心臓が悪いから起こるのかというと、実は必ずしもそうではないのです。

一方、心臓を養っている血管が詰まる病気に心筋梗塞や狭心症がありますが、不整脈は血管が詰まるから起きるのだと勘違いされている方が少なくありません。

心筋梗塞や狭心症は心臓の血管の病気であり、一方、不整脈は電気系統の"故障"ですから、基本的には別の病気です。


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不整脈の原因として最も多いのは、年齢に伴うものや、体質的なもの、つまり心臓病には関係しないものです。

1日または2日にわたって心電図を記録してみると、中年以上ではほとんどの人に、毎日1~2個は不整脈が見つかります。

年をとるにつれ、だれでも少しずつ不整脈が増えていきます。ストレス、睡眠不足、疲労などでも不整脈は起こりやすくなります。

そういう意味では、だれにでも起こりうるものだと言えるでしょう。

心臓は1日約10万回、収縮と拡張を繰り返していますが、時に規則正しくない刺激で不規則な収縮が起こる、と考えればよいでしょう。とくに検診で不整脈だけ見つかった場合は、病気とは関係のない不整脈であることがほとんどなのです。

しかし、すでに心臓の病気があると、二次的に電気系統の異常が生じて、不整脈が出やすくなるのも事実です。

例えば弁膜症になると、心房や心室が大きくなって電気の流れがおかしくなり、脈が乱れやすくなります。高血圧の人、肺に病気がある人、甲状腺に異常がある人も不整脈が出やすいのです。

不整脈は電気系統の故障

脈が乱れる3つのタイプ

不整脈は大きく分けて3つの種類があります。脈の遅くなる「徐脈」、速くなる「頻脈」、さらに、脈が飛ぶ「期外収縮」です。

「徐脈」は心臓の中で電気がつくられなくなったり、途中でストップしたりするために起こります。徐脈をきたす病態として、洞不全症候群、房室ブロックがあります。(表1)

「頻脈」は電気が異常に早くつくられるか、異常な電気の通り道ができて電気の空回りが起こるために発生します。頻脈をきたす病態には、心房細動、発作性上室性頻拍、心室頻拍、心室細動、WPW症候群などがあります。

また、「期外収縮」は本来、電気の生じる場所以外から早めに刺激が出てくるために起こる現象です。この刺激が心房から出る場合には心房性期外収縮、心室から出る場合は心室性期外収縮と呼ばれます。

一方、息を吸うと脈は速くなり、息を吐くと脈は遅くなります。運動や体温の上昇でも脈は速くなります。これらの脈の変化は病的なものではなく、生理的な反応と言えます。

 

症状はいろいろ

図2 期外収縮時の心電図と血圧

正常な場合は、心電図と血圧の波は一定になっている(上)。
期外収縮では"予想外の収縮"が起きるため(★)波に乱れが生じる(中)。
予想外の収縮によって起こる拍動は、平常より弱く打つため、脈がとんだように感じる。
期外収縮が連続して起こると、血圧が十分に上がらず(下)、十分な血液を全身に送り込めなくなるため、めまいなどの症状が出ることもある。

 

脈が乱れたからといって常に症状があるわけでなく、むしろそれに気づかない場合が多いようです。ただし、程度がひどくなれば自覚するようになります。

まず、脈が極端に遅くなり、数秒以上、脈がとぎれるようになると、ふうっとなったり、めまいがしたり、ひどい場合は意識がなくなって倒れたりします。また、脈の遅い状態が続くと、体を動かす時に息切れするようになります。

反対に、脈が速くなるとドキドキと動悸がし、さらに脈が速くなると心臓が十分な血液を送り出せなくなって、吐き気や冷や汗、意識が遠くなる症状が出てきます。


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期外収縮は症状のない場合が多いのですが、症状の出る場合は、脈の飛ぶ感じや、胸部の不快感、きゅっとする胸の痛みとして感じます。ただし、この時の痛みは胸の狭い範囲で起こり、しかも一瞬または数十秒以内でおさまるのが特徴です。

胸痛があると、狭心症や心筋梗塞ではないかと心配になりますが、それらの痛みはもっと長く続きます。期外収縮による胸痛は、脈をとれば飛んでいることから判断できます。

脈が飛んでいるのを、心臓が止まっているためと誤解されている方が案外、多いようです。

期外収縮では、本来のリズムより早めに刺激が出て心臓が動くため、1回の拍動で十分に血液を送れないのです。そのため、実際は心臓が動いているのに、拍動で生じた圧力は弱く、脈として感じられないので、脈が飛んだように思えるのです。

<図2>に期外収縮の心電図と血圧を示しています。この図の中段を見てもらえばわかるように、期外収縮が起こると「血圧」はすとんと落ち、脈が飛んだように感じるわけです。

脈が遅くなる時も、脈が飛ぶことがあります。2つに1つ、3つに1つといったように、規則的に脈が飛ぶときは、まず期外収縮が起きているとみてよいでしょう。

怖い不整脈とは

さて、これまで説明した中で、どの不整脈が要注意の怖いタイプなのでしょうか?
「何もしていないのにふうっとする」「急に意識がなくなる。つまり失神する」タイプ<イラスト>は最も危険です。この場合は、一時的に心臓が止まっているか、または極端な頻脈が起こっている可能性があります。失神症状が出た場合は、できるだけ早く病院を受診して、その原因を調べてもらい、治療を始める必要があります。

次に「脈拍数が1分間40以下で、体を動かす時に、強い息切れを感じる」ケース<イラスト>、この時は脈が遅くなりすぎて、心不全を起こしている可能性があります。この場合、ペースメーカー治療が必要になることがあります。

怖い不整脈の症状(その1)
急に失神状態になる
脈拍が減り強い息切れを感じる

三番目は、突然、始まる動悸です。この場合、頻脈が起こっていると考えてよく、「脈拍数が1分間に120以上で、突然始まり、突然止まる」、または「まったく不規則に打つ」ものは、病的な頻脈(頻拍)と考えられます。<イラスト>

多くは脈拍数が150から200前後になりますので、<図2>の下段のように血圧が下がり、脈が触れにくくなり、同時に息苦しくなって冷や汗が出ます。

とくに、この「頻拍」が心室から出ている場合は要注意です。というのは、血液は心室から直接、全身へ送り出されますから、ここで不整脈が続くのは、血液が全身に回らなくなることを意味します。なかでも心筋梗塞などの心臓の病気のある人に心室頻拍という不整脈が出てきた場合は、より怖い心室細動という不整脈に移行することがあるため要注意です。1分間に150以上の頻脈が続く場合は、不整脈をまず停止させて、その後、頻脈を予防する薬剤を服用する必要があります。


欠如の基本的なニーズとうつ病

一方、年をとると、10人に1人くらいの割で「心房細動」といって心房の中で電気が空回りして、脈が速くなる状態が起こります。この場合は脈がまったくバラバラに、しかも速く打つようになります。<イラスト>

心房細動では、不整脈のために死ぬようなことはまずありませんが、心房細動の状態が続くと、一部の人では心房の中に血のかたまり(血栓)ができやすくなり、それが脳にとんでいって、脳梗塞を起こすことがあります。そのため心房細動を予防する薬のほかに、血液を固まりにくくする薬を飲んでもらうことがあります。

怖い不整脈の症状(その2)
突然、動悸が始まり脈拍数が150以上
脈拍がバラバラでしかも早く打つ

怖くない不整脈とは

脈がたまに飛ぶ程度の人や、症状のない徐脈は心配のないことがほとんどです。また、運動や精神的な興奮によって脈が速くなる場合も心配ありません。

ただ、不整脈がある場合は、何が原因で起こっているか、元に心臓病がないかなどを、最低一度は心電図検査などで確認してもらった方がよいでしょう。

一方、安静にしている時に起こる頻脈のうち、数十秒から数分の間に脈が速くなるけれども、脈拍数はせいぜい1分間120までであり、その後徐々に遅くなる場合も、大抵は病的な頻脈ではありません。

救急車で病院に運ばれてくる人のなかに、息苦しさとともに動悸や両手足のしびれを訴える人がいます。脈が速く打つので、怖い心臓病ではないかと不安がつのって受診される場合がほとんどですが、そういう人に動悸の起こり方を聞きますと、数分以上かけて徐々に脈が速くなり、徐々に遅くなるタイプであることが少なくありません。

"自分は心臓が悪いのではないか"という不安感をきっかけに、精神的な興奮によって脈が速くなったり、息をしすぎる、つまり「過呼吸」になったりしたために起こることが多いのです。

脈拍が120以下で規則正しく打っておれば大丈夫だ、と自分自身に言い聞かせ、まず落ち着くことが大切です。

不整脈の検査方法

普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電図、運動負荷心電図、心臓超音波検査などによって行います。いずれも痛みは伴わない検査で<図3、図4>にその一部を紹介しました。

ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計をつけたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査です。

不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、狭心症は出ていないか、などがわかります。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりするものです。運動によって不整脈がどのように変わるか、狭心症が出るかどうかをチェックします。

心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に病気があるかどうかが診断できます。

心エコー検査と運動負荷検査で異常がなく、ホルター心電図で危険なタイプでなければ、いくら不整脈が数多く出ても、まず心配する必要はないのです。


図3 ホルター心電計(携帯型)
携帯型の心電計。非常に軽い小型のテープレコーダーについた電極を胸につけたまま帰宅し、24時間の心電図を記録する。
図4 運動負荷試験(トレッドミル)
心電図の電極をつけたまま、電動のベルトの上を歩き、運動時の心電図や血圧を調べる検査。トレッドミルのほかに、自転車のペダルをこぐエルゴメーターもある。

ほとんどが治せる

この10年間で不整脈の治療法はめざましく進歩し、いまではほとんどが治せるようになっています。

まず、徐脈の人は「ペースメーカー」を体内に取りつけることで、健康な人と変わらない生活ができるようになりました。ペースメーカーは遅くなった自分の脈(電気の流れ)の代わりに、心臓の外から電気刺激を与える装置です。

この装置を取りつける手術は<図5>のように肩の皮膚の下に電気刺激を発する小さな本体(電池)と、その刺激を心臓に伝えるリード(電線)を入れるだけですから、局所麻酔で簡単にすますことができます。

頻脈には「カテーテルアブレーション」という方法が開発され、手術せずに治せるようになりました。<図6>に、その仕組みを示しています。細い管(カテーテル)を足の血管から入れて、その先端から高周波を流し、頻脈の原因になっている心臓の筋肉の一部を焼くことによって不整脈を起こさないようにします。

致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置(植え込み型除細動器)もあります。

図5 心臓ペースメーカー
図6 カテーテルアブレーション

(心筋焼灼術)

不整脈の原因となっている心筋の病的部分を焼灼する

備えあれば憂いなし

これらのほかに、よく効く抗不整脈薬も次々開発されています。

仮に自分の不整脈が怖いタイプとわかっても、その多くは治すことができるようになっていますから、あまり心配せずに受診してください。

不整脈を「正しく怖がること」の意味がおわかりいただけたでしょうか。要は自分のタイプをよく知って、それなりの対策をとっておれば、無用の心配はいらないということなのです。



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