うつ病(うつびょう、鬱病、欝病)とは、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥(しょうそう)、精神活動の低下、食欲低下、不眠症などを特徴とする精神疾患である。
現在でこそ一般にも広く知れ渡っている病気であるが、以前は十分な理解が得られず「怠け病」などと呼ばれていた。
かつて日本で主流であったドイツ精神医学では、精神疾患を大きく外因性、内因性、心因性と原因別に分類し、うつ病はその中でも内因性うつ病という名で内因性疾患に分類されていた。
アメリカ合衆国の操作的診断基準であるDSM-IV-TRでは、「大うつ病性障害」(英語:major depression)と呼ばれている。majorを「大」と訳しているので誤解を生じやすいが、これは落ち込む程度の大、小のことではなく、「主要な」あるいは、「中心的な」という意味でのmajorである。「(小)うつは病気ではないが、社会生活に支障をきたすほどうつが悪化すると、これは精神疾患である。」という意味ではない。DSM-IV-TRでは、症状の重症度について別の基準で評価することになっている。
うつ病は、従来診断においては「こころの病気」である神経症性のうつ病と、「脳の病気」である内因性うつ病と別々に分類されてきたが、2010年現在多用されている操作的診断では原因を問わないため、うつ病は脳と心の両面から起こるとされている。
「脳の病気」という面では、セロトニンやノルアドレナリンの不足を原因とする仮説に基づく場合では、脳内に不足している脳内物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)の分泌を促進させる薬物治療を行う。これが日本国内では心療内科や精神科におけるうつ病治療の主流になっている。
日本うつ病学会では、厚生労働省からの依頼により、抗うつ薬の副作用をはじめとする薬物療法に関する諸問題を専門家の立場から検討し、適正な抗うつ薬使用法を提言するため、学会内に「抗うつ薬の適正使用に関する委員会」を2009年に設立している[1]。
あまり生活に支障をきたさないような軽症例から、自殺企図など生命に関わるような重症例まで存在する。うつ病を反復する症例では、20年間の経過観察で自殺率が10パーセント程度とされている。
なお、男女比では、男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいとされている[2]。
[編集] うつ病という言葉に関する注意
日本の精神医学界はドイツ精神医学が主流であったが、近年日本にもアメリカ精神医学が浸透し始め、従来診断と呼ばれるドイツ精神医学に倣った原因別分類ではなく、操作的診断と呼ばれる症状別分類で診断されることが多くなった。精神医学以外の医学では、一般に病気を原因別に分類する。例えば胸が痛いもののうち、心臓冠動脈の狭窄による心臓への虚血が原因で起こるものを狭心症と診断する場合がこれにあたる。しかし精神疾患は原因のわからないものが多いため、原因別に分類するより症状別に分類する方がより実際的であろうというのが操作的診断を行う側の立場である。この場合、胸が痛いもののうち痛みが一定期間続くものを"胸痛症"と呼ぶことになる。"胸痛症"という表現があるならば、そこには狭心症のほ� ��、肺塞栓や気胸など様々な疾患が含まれることになろう。逆に糖尿病で痛みを感じにくい患者に起こる狭心症は"胸痛症"には含まれないことになる。原因別に治療を行う内科など精神科や心療内科以外の身体科においてこれは実際的ではないので、"胸痛症"のような操作的病名は実際には使われない(使われる場合は○○症候群のように表現され、○○病という表現は用いられない)。
前述のように、症状別に診断した"胸痛症"と原因別に診断した狭心症は大きく違ったものであるが、それと同じように症状別Äに分類されたmajor depressive disorder(大うつ病性障害)などの操作的診断病名と、原因別に分類された内因性うつ病等の従来診断病名とは、同じうつ病であっても大きく異なる概念であると言える。
このことが専門家の間でさえもあまり意識されずに使用されている場合があり、時にはそれを混交して使用しているものも多い。そのため一般社会でも、精神医学会においても、うつ病に対する大きな混乱が生まれている。
漠然と「うつ病」と記載されている場合には、それが内因性うつ病、あるいはメランコリー親和性うつ病などと呼ばれた従来診断におけるうつ病のことなのか、抑うつが2週間以上続くなどの状態像で操作的に分類されたmajor depressive disorder(大うつ病性障害)などのうつ病のことなのか、ということを十分に意識して読む必要がある。
※この記事においても、操作的診断と従来診断のうつ病が混交して使用されているので注意が必要である。
うつ病の症状を理解するには、大うつ病についてのDSM-IVの診断基準を参照するとよい。
DSM-IVの診断基準は、2つの主要症状が基本となる。それは「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」である。精神症状と共に身体的な症状を生じる。身体的な症状は、診断に先立って訴えられることもある。
「:en:Major depressive episode」も参照
- 精神症状
- ボーっとすることが多くなり、口数が少なくなる。学校・会社・部活動では、休みがちになったり、不登校になる。集中力がなくなり、運動神経や記憶力が低下し、勉強ができなくなる。人の話を聞けなくなる。「どうせ自分なんか価値の無い存在だ」と考えるようになるなど、自尊心が低下する。「抑うつ気分」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどである。「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態である。この2つの主要症状のいずれかが、うつ病を診断するために必須の症状であるとされている。これら主要症状に加えて、「抑うつ気分」と類似した症状として、「自分には何の価値もないと感じる無価値感」、「自殺念慮・� �死念慮」、「パニック障害」などがある。
- 身体的症状
- 頭が割れるような頭痛。不眠症などの睡眠障害。吐き気。少しの動作で疲れるようになってしまう。消化器系の疾患で急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍。摂食障害に伴い、食欲不振と体重の減少あるいは過食による体重増加。全身の様々な部位の痛み(腰痛、頭痛など)訴えとしては「食欲がなく体重も減り、眠れなくて、いらいらしてじっとしていられない」もしくは「変に食欲が出て食べ過ぎになり、いつも眠たく寝てばかりいて、体を動かせない」というものである。
- うつ病の約8割に不眠が、1割に過眠が見られる[3]。
- その他
- 人付き合いを避けるようになるなど、対人関係が悪化し、さらに病気を悪化させるという悪循環が起きやすい。
うつ病の成因論には、生物学的仮説と心理的仮説がある。心理的仮説は生理的な理由付けが無いため、科学的根拠に欠けるとの批判が存在するが、生物学的仮説は2010年現在は脳と精神の関係がほとんど解明されていないこともあり、治療という面でも初期の段階にある。ただし、統合失調症などに幾分か有効な薬が開発されているが、2010年現在はうつ病の症状を抑える程度の薬しか存在しない。いずれの成因論もすべてのうつ病の成因を統一的に明らかにするものではなく、学問的には、なお明確な結論は得られていない。最近では、ω-3脂肪酸との関連が指摘されている。
治療場面では、なぜうつ病になったかという問いよりも、今できることは何かを問うべきである。この意味で、成因論は学問的関心事ではあるが、現時点では臨床場面での有用性は限定的である。
生物学的仮説は、薬物の有効性から考え出されたモノアミン仮説、死後脳の解剖結果に基づく仮説[4]、低コレステロールがうつおよび自殺のリスクを高めるとの調査結果、MRIなどの画像診断所見に基づく仮説などがあり、2010年現在も活発に研究が行われている。モノアミン仮説のうち、近年はSSRIとよばれるセロトニンの代謝に関係した薬物の売り上げ増加に伴い、セロトニン仮説がよく語られる。また近年、海馬の神経損傷も話題となっている。ただ、臨床的治療場面を大きく変えるほどの影響力のある生物学的な基礎研究はなく、決定的な結論は得られていない。
うつ病とは何か?という理解は、偶然に効果が発見された抗うつ薬の発見とともに進歩してきた。抗うつ薬は、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質を増加させる作用を持つことが注目されている[5]。
うつ病では、神経伝達物質がうまく働かなくなっていると考えられている。うつ病は、脳の神経機能に変調が起きている病気であると考えられている[6]。
また、不安障害の一部であるパニック障害の患者は、50~65%に生涯のいつの時点かにうつ病が併存する[7]。
一方、心理学的・精神病理学的仮説としては、フーベルトゥス・テレンバッハの唱えたメランコリー親和型性格の仮説が有名である。これは、几帳面・生真面目・小心な性格を示すメランコリー親和型性格を持つ人が、職場での昇進などをきっかけに、責任範囲が広がると、すべてをきっちりやろうと無理を重ね、うつ病が発症するという仮説である。つまり鬱の原因は人生問題であるというものである。生活での悩みが鬱の原因になるという主張はことに反論を唱えるものはいないが決してすべてのうつ病がこの仮説に一致する訳ではない。例えば家族の一員の死などで鬱になる場合でも個人差があり回復に数年と言うケースも存在する。またまれに理由も無く深刻な鬱である場合もある。ただしこのような心理的仮説は鬱を生物学的� ��捕らえ治療を行うという考え方に対する疑問として掲示される仮説である。
また、認知療法の立場からは、人生の経験の中で否定的思考パターンが固定化したことがうつ病と関連しているとされている。
物質誘発性気分障害はうつ病に類似していおり、長期間のレクリエーション薬物使用・薬物乱用・抗不安薬や睡眠薬の離脱症状に起因する[8][9]。
[編集] 生物学的仮説:モノアミン仮説
1956年、抗結核薬であるイプロニアジド、統合失調症薬として開発中であったイミプラミンが、KlineやKuhnにより抗うつ作用も有することが発見された。発見当初は作用機序は明らかにされておらず、他の治療に使われる薬物の薬効が偶然発見されたものであった。その後イプロニアジドからモノアミン酸化酵素(MAO)阻害作用、イミプラミンにノルアドレナリン・セロトニンの再取り込み阻害作用があることが発見された。その後これらの薬物に類似の作用機序を持つ薬物が多く開発され、抗うつ作用を有することが臨床試験の結果明らかなった。よってモノアミン仮説とは、大うつ病性障害などのうつ状態は、モノアミン類、ノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の低下によって起こるとした仮説である。
しかし脳内の病態が明らかにされていない以上、逆の病態が大うつ病性障害の根本原因と結論付けることは出来ず、あくまで仮説にとどまっている。そもそも脳そのものの神経伝達物質の動きは見ることができないという技術的限界がある。
さらにこの仮説に対する反論としては、シナプス間隙のノルアドレナリンやセロトニンの低下がうつ病の原因であるとすれば、抗うつ薬は即効性があってしかるべきである。うつの改善には最低2週間要することを考えると、この意見は一理あると言える[10][11]。
[編集] 生物学的仮説:脳の海馬領域における神経損傷仮説
- うつ病の神経損傷仮説:
近年MRIなどの画像診断の進歩に伴い、うつ病において、脳の海馬領域での神経損傷があるのではないかという仮説が唱えられている[12]。そして、このような海馬の神経損傷には、遺伝子レベルでの基礎が存在するとも言われている[13]。
また、海馬の神経損傷は幼少期の心的外傷体験を持つ症例に認められるとの研究結果から、神経損傷が幼少期の体験によってもたらされ、それがうつ病発病の基礎となっているとの仮説もある。コルチゾール(cortisol) は副腎皮質ホルモンであり、ストレスによっても発散される。分泌される量によっては、血圧や血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊をもたらす。また、このコルチゾールは、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させることが、近年心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の脳のMRIなどを例として観察されている[12]。心理的ストレスを長期間受け続けるとコルチゾールの分泌により、海馬の神経細胞が破壊され、海馬が萎縮する。心的外傷後ストレス障害(PTSD)・うつ病の患者にはその萎縮が確認される[14]。
[編集] 栄養学的仮説:ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸のアンバランス仮説
ヒト及びその他の動物にとっては、体内でω-6脂肪酸(リノール酸等)とω-3脂肪酸(α-リノレン酸、DHA等)の2系統の多価不飽和脂肪酸を合成できないので必須脂肪酸となっている。ω-9脂肪酸系統の不飽和脂肪酸は18:0のステアリン酸から18:1のオレイン酸に変換することができて体内で合成できるので必須脂肪酸ではない。うつ病が20世紀になって増加しているがω-6脂肪酸を多く含む植物油の摂取が増加したことと軌を一にする。うつ病患者においてはω-6脂肪酸からアラキドン酸を経て生成される炎症性の生理活性物質であるエイコサノイドのレベルが高いということが示されている[17][18]。シーフードをたくさん摂取するところほど母乳内のドコサヘキサエン酸(DHA)は高く、産後うつ病の有病率は低かった。母体から胎児への転送により、妊娠・出産期には母親には無視できないω-3脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある。また、うつ病の深刻さと赤血球中のリン脂質におけるω-6脂肪酸のアラキドン酸とω-3脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)の比率の間に有意な正の相関が認められた。さらに、健常者と比較してうつ病患者はω-3脂肪酸の蓄積量が有意に低く、ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の比率は有意に高かったことが指摘されている[19]。 DHAは精液や脳 、網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。DHAは脳内にもっとも豊富に存在する長鎖不飽和脂肪酸で、エイコサペンタエン酸(EPA)は脳内にほとんど存在しない[20]。なお、DHAは脳関門を通過できるが、EPAを含めた他のω-3脂肪酸は脳関門を通過することができない[21]。DHAの摂取は血中の中性脂肪(トリグリセライド)量を減少させ、心臓病の危険を低減する。また、DHAが不足すると脳内セロトニンの量が減少し、多動性障害を引き起こすという報告がある[22]。アルツハイマー型痴呆[23][24]やうつ病などの疾病に対してもDHAの摂取は有効であるといわれている。一方で、DHA投与がアルツハイマー病の症状を改善しなかったとの報告がある[20]。
細胞膜は流動性を持ち、脂質や膜タンパクは動いている。この流動性は膜の構成物質で決まる。たとえば、リン脂質を構成する脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)に影響され、二重結合を持つ炭化水素が多いほど(二重結合があるとその部分で炭化水素が折れ曲がるので)リン脂質の相互作用が低くなり流動性は増すことになる[25]。例えばDHAは不飽和度が極めて高く細胞膜の流動性の保持に寄与している。神経細胞は、軸索や樹状突起などの凹凸の多い入り組んだ構造を有しているため、膜成分が極端に多くなっている[26]。DHAは、神経細胞の細胞膜を柔らかくし、樹状突起を増やしたり、軸索の成長を促して脳・神経系の健全性を保っている[27]。マウス動物実験では、ω-3脂肪酸の不足でCB1Rカンナビノイド受容体の機能喪失に引き続いて、報酬系に関わるシナプス可塑性が妨げられる報告がある[28]。
ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の望ましい摂取比率は1:1から1:4であると言われている[29][30]。海外で利用される代表的な食用油の多くが高い比率のω-6脂肪酸が含まれていてω-3脂肪酸があまり含まれていない[31]。日本ではω-3脂肪酸をバランス良く含んでいるキャノーラ油をはじめとした菜種油が食用油の全生産量の6割を占めており[32]、日本ではω-3脂肪酸の豊富な海産物が多く消費されているため、海外諸国に比べれば日本の食品中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は高いと推定される。食事中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は、日本の妊婦では1:3[33]、日本の成人では1:4、アメリカでは1:8の比率となっている[34]。後述するように、WHOの統計では、うつ病の障害調整生命年は、日本が世界最低レベルであり、アメリカが世界最高レベルとなっている。なお、近年では日本の20歳以下の若年者の食事中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率が低下してきており、厚生労働省のデータでは1:5[35]、奥山のデータでは1:7、と指摘されており、うつ病の原因がω-3脂肪酸とω-6脂肪酸のアンバランスであるならば、成年に比較して若年者のうつ病の増加が懸念されるところである[34][33][36]。
[編集] 心理学的仮説:病前性格論
心理学的成因仮説の代表は、病前性格論である。うつ病にかかりやすい病前性格として、主に、メランコリー親和型性格、執着性格、循環性格、が日本では提唱されている(米英圏では強迫性)。しかし、近年はうつ病概念の拡大や社会状況の変化に伴い、下記の性格に該当しないうつ病患者が増加している。
- メランコリー親和型性格は1961年にテレンバッハが提唱したもので、秩序を愛する、几帳面、律儀、生真面目、融通が利かないなどの特徴を持つ。主として反復性のないうつ病を呈するとされる。
- 執着性格は1941年に下田光造が提唱したもので、仕事熱心、几帳面、責任感が強いなどの特徴を持つ。反復性うつ病ないし躁うつ病の病前性格の1つであるとされる。
- 循環性格はエルンスト・クレッチマーが提唱したもので、社交的で親切、温厚だが、その反面優柔不断であるため、決断力が弱く、板挟み状態になりやすいという特徴を持つ。躁うつ病の病前性格の一つであるとされる。
[編集] 薬物およびアルコールの使用
「気分障害#薬物誘発性気分障害」も参照
DSM-IVでは、その原因が「物質の直接的な精神的作用」に起因すると判断される場合は、気分障害の診断を下すことはできないとしている。大うつ病に似た症状が物質乱用や薬物有害反応によって起こされていると判断される場合、それは"substance-induced mood disturbance"と定義される。 アルコール依存症または過度のアルコール消費は、大幅に大うつ病の発症リスクを増加させる[37][38][39][40][41]。
また、逆にうつ病が原因となってアルコール依存症になる場合もある[40][42][43]。
アルコールと同様に、ベンゾジアゼピンはうつ病発症リスクを増加させる。この種類の薬は不眠・不安・筋肉痙攣に広く使用されている[9][44]。 このリスク増加はセロトニンとノルエピネフリンの減少など、薬物の神経化学への効果が一因である可能性がある。ベンゾジアゼピン系の慢性使用も抑うつを悪化させ[45][46]、うつ症状は長期離脱症候群の1つである可能性がある[9][47][48][49]。 ただし、うつ病に伴う睡眠障害に処方される睡眠導入剤には、ハルシオン、デパス、フルニトラゼパム、エリミン、ランドセンなどベンゾジアゼピン系の薬が多い[50][51][52][53]。 JCPTDでは、薬物治療急性期には抗うつ効果発現までのベンゾジアゼピン系薬物処方は有用であるが、依存性のため長期投与は推奨していない[54]。
[編集] 臨床評価
「:en:Rating scales for depression」も参照
大うつ病の診断を行う前に、一般的に医師によって医学的検査と幾つかの調査が他の症状を除外するために行われる。血液の甲状腺刺激ホルモン(TSC)とチロキシン測定によっての甲状腺機能低下症除外、基礎電解質と血中カルシウム測定で代謝障害の除外、全血球算定(赤血球沈降速度ESRを含む)により全身性疾患や慢性疾患の除外など[55]。 薬物の副作用やアルコール乱用も同様に除外される。男性の抑うつの場合、テストステロンのレベル測定によって性腺機能低下症も除外される[56]。
客観的認知についての問題が老人の抑うつに現れることがあるが、それはアルツハイマー病などの痴呆性疾患の可能性がある[57][58]。 認知テストと脳画像イメージによって認知症とうつ病を区別する助けとなる[59]。 CTスキャンは精神病患者の脳病理を除外することができ、また異常兆候を迅速に判断できる[60]。 生物的テストでは大うつ病の診断を行う方法はない[61]。 一般的に、医学的な問題がない限りその後検査を繰り返す必要はない。
2011年、広島大学大学院などの研究グループが客観的にうつ病を診断できる指標となる物質を発見したことが、米国科学誌プロスワン電子版にて発表された[62]。
[編集] 「うつ状態」と「うつ病」
うつ状態を呈するからといって、うつ病であるとは限らない。うつ状態は、本当の「気分障害」に該当するもの以外にも、次のような原因によって引き起こされる。
また、下記のような器質的疾患からうつ病・うつ状態となることもあるので、診察時には注意を要する。
こうした様々なうつ状態のうち、臨床場面で大うつ病エピソードとして扱われるのは、DSMの診断基準[64]に従って、「死別反応以外のもので、2週間以上にわたり毎日続き、生活の機能障害を呈している。」というある程度の重症度を呈するものである。
うつ病私は骨のがんの遺伝性疾患を必要とする
[編集] DSM-IV-TRとICD-10の診断基準
抑うつについて最も広く用いられる診断基準は、アメリカ精神医学会による精神障害の診断と統計の手引き改訂4版(DSM-IV-TR)と、もう一つは世界保健機関の疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)であり、その中ではrecurrent depressive disorder(再発性抑うつ障害)という名称を用いている[65] 前者は米国および非ヨーロッパ諸国で多く用いられ、後者はヨーロッパで多く用いられる[66]。 双方の製作はお互いに反映し合いながら行われている[67]。
双方のガイドラインでは典型的な抑うつ徴症を示している。ICD-10では3つの抑うつ徴症(depressed mood, anhedonia, and reduced energy)を示し、そのうち2つはうつ病の診断確定に必須である[68]。 DSM-IV-TRでは2つの主な抑うつ徴症(depressed mood, anhedonia)を示し、少なくともひとつが大うつ病の診断確定に必須である[69]。
DSM-IV-TRでは大うつ病は気分障害に分類される[70]。 診断は単発または繰り返される大うつ病エピソードに基づく[71]。追加の情報はその他の障害と区別するために用いられている。
特定不能うつ病性障害(en:Depressive Disorder Not Otherwise Specified)は、抑うつエピソードが大うつ病エピソードを満たしていない場合に診断される。ICD-10の仕組みでは大うつ病をという言葉を使っていないが、しかしうつ病エピソード(軽度・中度・重度)の診断のために非常に類似した一覧がある。複数のエピソードであって躁病のないものは「再発性(recurrent」という表記が付けられる[72]。
[編集] 大うつ病エピソード
詳細は「:en:Major depressive episode」を参照
大うつ病エピソードとは、少なくとも2週間以上の深刻な抑うつ気分の愁訴によって特徴付けられる[71]。 エピソードは、単発または繰返しであり、軽度(いくつかの愁訴が最低限の基準に該当する)、中度、深刻(社会的や職業的能力を妨げている)に分類される。 精神的要素を伴うエピソードは一般的に精神的抑うつ(en:psychotic depression)とよばれ、深刻(severe)であると格付けされる。 もし患者が躁病や軽躁病のエピソードを持っていれば、診断は代わりに双極性障害となる[73]。 時折、躁病が伴わない抑うつは感情が1つの状態や極位に位置しているため unipolar と呼ばれる[74]。
DSM-IV-TRでは症状が死別によるものである場合は除外しているが、しかしその気分が長期化し大うつ病エピソードの特徴付けられる要素がある場合は、死別を原因として抑うつエピソードに入る可能性があるとしている[75]。 だが抑うつを引き起こした個人の他側面と社会的な状況を考慮していないという点について、批判の対象となっている[76]。 加えて、いくつかの研究ではDSM-IVのカットオフ基準について感情的サポートが乏いことにより、様々な長期間の抑うつについて様々な重症度と期間の面から診断基準を示している[77]。
関連する診断に、気分変調症(慢性的だが軽度の気分変調)[78]、再発性軽度うつ病(en:recurrent brief depression, 軽いうつ病エピソード)[79][80]、マイナー抑うつ病(en:minor depressive disorder, 大うつ病の軽いエピソードの幾つかのみが存在)[81]、適応障害を伴う抑うつ(特定のイベントやストレッサーにより起こされる精神的結果、落ち込み)[82]があり、これらを診断で除外する必要がある。
[編集] サブタイプ
DSM-IV-TRでは、気分障害について5つの細部分類を設けており、期間・重症度・精神的要因によって分類される。
[編集] 分類
うつ病・うつ状態には、様々な分類がある。
まずうつ状態そのものの分類は、症状の重症度で区分する分類と、成因で区分する分類に分かれる。
- DSM-III以降の米国精神医学会のうつ病分類では、うつ病性障害は、ある程度症状の重い「大うつ病」と、軽いうつ状態が続く「気分変調症」に二分されている。
- 一方古典的分類では、疾患の成因についての判断が優先され、「心理的誘因が明確でない内因性うつ病」と、「心理的誘因が特定できる心因性うつ病」の二分法が中心となっている。狭義には前者が"うつ病"とされ、心因性のものは「適応障害」などに分類されることが多い。
DSMなどの症状のみで判断する分類は、実際的で研究や統計に適しているとされる。一方、臨床場面では心理的誘因の評価は不可欠であり、治療において重要である。例えば、"心因性のうつ"では、原因から遠ざかれば一晩で元気になる可能性もあり、治療や環境変化などへのレスポンスが大きく異なっている。
さらに、うつ病の長期経過による分類がある。すなわち、治療の経過に伴い躁状態を呈する双極性障害(いわゆる「躁うつ病」)、うつ病を繰り返す反復うつ病、再発のない単一エピソードうつ病の区分である。
[編集] 双極性障害との鑑別
うつ病の診断においては、軽躁と鬱を繰り返す双極II型障害を単極性・反復性と誤診するなど、双極性障害と見分けがつきにくいケースが多い。患者側も、睡眠時間が短くてもすんでしまうなど現代の過酷な社会環境にむしろ適応的であり、ばりばりと働けたなどの充実感などのため、軽躁状態を異常と認識せず、主治医に申告しないこともある。
そのため、大うつ病性障害など「うつ病として」受診に来た患者を診断する場合、初診で躁病エピソードの既往症(軽躁エピソードは特に)を確認し、双極性障害でないかどうか明確に鑑別しておくことが何よりも重要であるとの指摘がある。これは、大うつ病性障害などの単極性の気分障害と双極性障害は、治療法が根本的に異なるためである[83][84]。
また、長期経過の中で、うつ状態に加えて躁状態も生じる場合にも、双極性障害(いわゆる躁うつ病)の可能性がある。そのため、躁状態に転じることを常に注意し、素早く対応することが必要であるとも指摘されている[85]。
うつ病を繰り返し生じる場合には、反復性うつ病と呼ばれており、これも、遺伝研究などによって、躁うつ病と根本的には同一の疾患であるとされている。
一方、再発のないうつ病は、単一エピソードうつ病と呼ばれ、躁うつ病とは異なった疾患であると考えられている。
近年、最先端医療の分野で光トポグラフィーを用いた科学的な診断方法が注目を浴びているが、ごく一部の医療機関でしか行われていない、うつ病、統合失調症、双極性障害の判断区別を行える[86]。
[編集] 血液診断
一般健康診断やプライマリケアでも、精神科専門医と同等のレベルの診断を受けられるように、大うつ病の客観的な指標が必要とされている。2011年には、山形県鶴岡市にあるヒューマン・メタボローム・テクノロジーズおよび東京小平市の国立精神・神経医療研究センターが血液中のエタノールアミンリン酸で大うつ病を診断できると発表し、広島大学も血液中のBDNF遺伝子のメチル化を調べることでうつ病を診断できると発表している。今後、うつ病等の精神疾患を客観的に診断できるマーカーを探索するために、健常者および患者の血液を用いて、プロテオミクスあるいはメタボロミクスが積極的に行なわれると考えられる。
詳細は「うつ病の治療」を参照
[編集] 治療の基本方針
性格や環境がうつ状態に強く関係していない内因性うつ病の場合
セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の働きが悪くなっていると推測されている。「典型的」なうつ病であり、通常は抗うつ薬がよく効き、治療しなくても時間が解決する場合もあると言われている[87]。
脳の神経伝達物質に関する問題であって、性格や考え方の問題ではないと考えられている[88]。
基本的に現在はまず鬱が病気であることを本人・家族が納得し、「無理をせず、養生して、(原則として)薬を飲んで、回復を待つ」ことである[89][88][90][91][92]。
- 内因性うつ病の症状は、"気の持ちよう" "努力"などで変えられるものではない。変えられないものを、変えようと無理をすれば、症状を悪化させる。むしろ、変えようとせず、憂うつな気分に逆らわず、十分な休養を取りながら、回復を待つべきである[89][88][90][92]。
- うつ病の症状の一つに、将来を悲観してしまうことがある。病気のため、もう治らないとしか考えられなくなることも多い。しかし、うつ病はいかに重症でもいつかは改善するものである。いつかは良くなるという希望を持つことが重要である[93]。
- またあせって人生の決断を下さない方がよい。例えば転職・退職、離婚などの重要な決断はなるべく後回しにする。一般にうつ病のため判断能力は低下していることが多く、適切な判断が下せないことが多い[89][91]。
- 家族など周囲の人たちも、長い目でうつ病患者を見守ることが求められる。「頑張れ」や「さぼるな」という言葉は、患者自身の力ではどうしようもない今の状態を、今すぐに自分の力で変えるようにと、無理を求めるものとなる。そして、このような言葉は、患者を追いつめ、最悪の場合、自殺の誘因とならないとも限らない。患者のみならず、周囲の人々も、患者がうつ病であり、患者自身の力では今の状態から抜け出せないことを受け入れ、長い目で回復を信じ、あせらないことが必要である[89][91]。
- 「気の持ちようではないか」「旅行にでも行って気分転換してはどうか」といった言葉も、適切ではない。うつ病でなくとも、嫌なことが起きれば、嫌な気分になるし、そういった一過性の軽い抑うつ気分は多くの人が経験する。これらの言葉は、うつ病もそれと同じように対処すれば良いものと見ている。しかし、長期間に及ぶような酷いうつ状態(つまりうつ病)の場合には、適切な治療なしには気の持ちようを正すこともできず、旅行に行く気力も出ないため、これらの言葉はかえって患者を苦しめる。患者がこれらのアドバイスを受け入れられるほど回復したかどうかの見極めが大切である[91]。
- 治療の前提として、治療の基本的原則について、しっかりと医師が説明を行い、患者が納得して治療に取り組むことが必要である。また、投薬についても、医師がしっかりと説明する必要がある。患者も、分からないことは質問していくことが必要である。こうした医師と患者のコミュニケーションが治療の成功には不可欠である[91]。
性格や環境がうつ状態に強く関係していると思われる心因性うつ病の場合
- 環境のストレスが大きい場合は調整可能かどうかを検討し、対応する[87]。また、身体疾患や薬剤がうつ状態の原因であったり、うつ状態に影響を与えていたりしないか検討する[87]。心理的葛藤に起因すると思われるうつ病では、原因となった葛藤の解決や、葛藤状況から離れることなどの原因に対する対応が必要である。
また、うつ病の一人一人の患者においては、信頼できる主治医をもち、自分に合ったアドバイスを主治医にもらうことが最も重要である[87]。
[編集] 入院・外来などの治療設定の選択
- 入院するかどうかなどの治療設定の選択をする場合には、症状の重症度の判断が重要である。ただし、専門的に見てかなり重症であると判断されるうつ病を、家族や周囲の人が、軽く見ることは多く、専門医を受診し、診断を受けることがまずもって必要である。特に、「死にたい」とか「消えてしまいたい」「自分は居ない方がいい」などの希死念慮や自己否定的な内容を口にする場合には、自殺の危険性があり、すみやかな受診が必要である。
- 治療開始の時点では、自殺の危険性が高い重症例であるか否かがまず評価され、自殺の危険性が高い重症例では、入院治療が必要となる[89][94]。
- 自殺の危険性はないが、日常生活に著しい障害が生じている場合には、仕事を休んだり、主婦であれば家事を誰かに手伝ってもらうなど、社会的役割を免除してもらい、休養する必要がある[89][88][90]。
- 日常生活における障害が軽い軽症例では、これまで通りの生活を続けながら、治療を行うこともある。
- うつ病治療の基本は、日本では薬物療法と休養が原則とされる[89][88][90][91][92]。
[編集] 治療法各論
[編集] 薬物療法
「抗うつ薬」も参照
抗うつ薬の有効性については議論がある。抗うつ薬の効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1週間ないし3週間の継続的服用が必要である。このことをしっかりと理解して服薬する必要がある。 抗うつ薬のうち、従来より用いられてきた三環系抗うつ薬あるいは四環系抗うつ薬は、口渇・便秘・尿閉などの抗コリン作用や眠気などの抗ヒスタミン作用といった副作用が比較的多い。これに対して近年開発された、セロトニン系に選択的に作用する薬剤SSRIや、セロトニンとノルアドレナリンに選択的に作用する薬剤SNRI、NaSSA等は副作用は比較的少ないとされるが、臨床的効果は三環系抗うつ薬より弱いとされる。 また、SSRIはプラセボ程度の効果しかないとの見解もある[95]。
不安・焦燥が強い場合などは鎮静薬を、不眠が強い場合は睡眠導入剤を併用することも多い。またカルバマゼピンやベンゾジアゼピン系もしばしば用いられている。しかしこれらはベンゾジアゼピン依存症・ベンゾジアゼピン離脱症候群をまねき、うつ病を悪化させる。英国国立医療技術評価機構(NICE)では[96]ベンゾジアゼピンの投与は患者と討議の上で短期間のみに限定され、慢性不安症への投与禁止、薬物依存を起こすため2週間以上の投与禁止と定められている。
また、近年セント・ジョーンズ・ワートを始めとしたハーブの利用にも注目が集まっており後述する。なお、非定型うつ病については、本来モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害剤)が第一選択になり、欧米では活用されているが、2010年現在日本で認可されているものはない。
抗うつ薬による治療開始直後には、年齢に関わりなく自殺企図の危険が増加する危険性があるとアメリカ食品医薬品局 (FDA) から警告が発せられ[97]、日本でもすべてのSSRIおよびSNRIの抗うつ薬の添付文書に自殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された[98]。
子供・青年・18-24歳の若年者に対しては、SSRI治療は自殺願望と自殺的行動について高いリスクが存在するとFDAは報告している[99][100][101][102][103] 成人についてはSSRIと自殺リスクの関係は明確ではない[103]。あるレビューでは関係性が認められておらず[104]、 別のレビューではリスクが増加すると報告され[105]、 第三のレビューでは25-65歳ではリスクはなく65歳以上では低リスクと報告している[106]。 疾病データ上では、新しいSSRI時代の抗うつ剤の普及により伝統的に自殺リスクの高い国で自殺率の大幅な低下をもたらしていると分かった[107]が、因果関係は確定されていない[108]。 米国では2007年に、SSRIとその他の抗うつ薬について24歳以下の若年者では自殺リスクを増加させる可能性があるというブラックボックス警告がなされた[109]。同様の警告は日本の厚生労働省からもされている[98]。
[編集] 認知行動療法
詳細は「認知行動療法」を参照
外界の認識の仕方で、感情や気分をコントロールしようという治療法。抑うつの背後にある認知のゆがみを自覚させ、合理的で自己擁護的な認知へと導くことを目的とする。対人関係療法も認知行動療法の要素を持つ。
現在認知行動療法(CBT)は、子供と青年の抑うつに対して最も研究エビデンスが多く存在する。CBTと対人関係療法(IPT)は思春期の抑うつに対して勧められる。NICEでは、18歳以下の人について薬物治療を行う場合はCBT・ICT・家庭セラピーなどといった心理療法を併用しなければならないとしている[110]。
APAガイドラインでは、心理療法は患者の初期治療の選択肢として推奨されている[111]。
日本うつ病学会では、認知療法は薬物療法と同時並行的に行われる精神科治療の基本であり、薬物療法に代わる治療法という見方は明らかに間違っていると言うことを強調している[112]。JCPTDでは慢性化していない例では抗うつ薬より推奨している[113]。
なお、認知行動療法は専門家と相談するため、治療費としては高額である事は覚悟する必要がある。
[編集] 電気けいれん療法 (ECT)
詳細は「電気けいれん療法」を参照
頭皮の上から電流を通電し、人工的にけいれんを起こすことで治療を行う。薬物療法が無効な場合や自殺の危険が切迫している場合などに行う。最近は全身麻酔を使用した苦痛のない方法がとられることがほとんどである(そのため入院も可能な大病院でしかできない)[114]。安全管理も慎重に行われるようになった[115]。前述の場合に有効性が高い治療法であると考える臨床家も多く[116]、保険診療でも認められている。その一方で、薬物療法など他の方法が功を奏さない場合に限るとするなど[117]慎重な適用を求めるものもいるほか、この治療そのものを勧めない精神科医もいる(電気けいれん療法#勧めない精神科医もいる参照)。
[編集] その他
その他、実験的段階にあるものや、限定的に行われる治療法として以下のようなものもある。
うつ病薬の子供危険
- 経頭蓋磁気刺激法 (TMS)
- 頭の外側から磁気パルスを当て、脳内に局所的な電流を生じさせることで脳機能の活性化を図るもの。保険は未承認。
- 断眠療法
- うつ病患者が夜間眠らないことでうつ症状が急速に改善するという治療法である。薬物治療への効果が乏しく、うつ状態が長く続いているような場合に施行される。
- 光療法
- 強い光(太陽光あるいは人工光)を浴びる治療法。過食や過眠のあることが多い、冬型の「季節性うつ病」(高緯度地方に多い冬季にうつになるタイプ)に効果が認められている。冬季うつ病の第一義的な治療法は光療法とされ、抗うつ剤よりも有効性が高いことが確認されている[118]。
- また、光療法が非季節性のうつ病の治療に有効であることが実証された[119]。光療法がうつ病に効果があるかどうかは古くから検討されてきたものの、有効、無効の両方の報告があり、有効であることの決定的な証拠はなかったが、最新の研究成果によりその有効性が実証されるに至っている。
- 運動療法
- フィジカルトレーニングは軽度の抑うつ治療に推奨されるが[120]、適度なものに限り、また多くの大うつ病の場合には統計的に明確な効果は認められていないとの報告もある[121][122]。入院時の日課とする病院もある[123]
- ハーブの利用
- ハーブとして利用されているセント・ジョーンズ・ワートは、ドイツをはじめいくつかの国では軽度のうつに対して従来の抗うつ薬より広く処方されている[124]。臨床研究の結果は成否さまざまで、軽度から中程度のうつに対して有効でかつ従来の抗うつ薬よりも副作用が少ないとする研究がある一方で、プラセボ以上の効果は見られないとする研究もある。コクランレビューによる2008年の報告[125]によると、これまでのエビデンスからプラセボ群より優れた効果を示し、標準的な抗うつ薬と同等に効果があるが副作用は小さいことが示唆されるという。ただし重度の抑うつには効果が弱いとされるほか、同時に服用した他の薬の効果に干渉することがあるため注意が必要とされる[126]。
- ω-3脂肪酸の摂取
- 魚油食品、肝油、ニシン、サバ、サケ、イワシ、タラ、ナンキョクオキアミ等の魚介類は、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなω-3脂肪酸に富んでいる。エゴマ油、アマニ油に豊富に、またキャノーラ油にバランスよくω-3脂肪酸のα-リノレン酸(ALA)が含まれている[127]。
「誰でもかかる可能性がある」「罹患し易い」ことを表した『うつ病は心の風邪』という言葉が、一部における「うつ病は放っておいても簡単に治る」という誤解に繋がっているが、薬剤治療を行った人ほど予後がよかった[128]。日本では薬剤治療が一般的である[88][90][91][92][129]。経験者は、この世から消えてしまいたいと思うことがある[92]。 1950年代に抗うつ薬が登場するまでは、電気けいれん療法(1938年創始)、ロボトミー(1935年創始)しか効果の証明された治療法が無かったが、その後抗うつ薬が登場し薬物治療が発達した。過去に比べれば、うつ病に対する治療法は確立されてきている。
日本での研究では、6か月程度の治療で回復する症例が、50パーセント程度であるとされ[92][130]、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復する。しかし、一方では20パーセント程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ[92]、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではない。また、一旦回復した後にも、再発しない症例がある一方、うつ病を繰り返す症例もある。このように、様々な経過をとる可能性があることは認識しておく必要がある。
再発率に関しては、うつを繰り返すたびに高くなる傾向にあり、初発の場合の次回再発率は50パーセント、2回目の場合75パーセント、3回目の場合は90パーセントにものぼる[131]。
大うつ病は、治療の有無に関わらず時間が解決することが多い。うつの外来患者リストの10 - 15パーセントは数ヶ月以内に減少し、約20パーセントはもはやうつ病基準を完全には満たさない[132]。エピソードの中央値は23週と推定されており、最初の3ヶ月間で回復する率が最も高い[133]。
研究では、初めて大うつ病を経験した人の80%が一生で1回以上の再発を経験し[134]、その平均は4回であった[135]。 他の一般的な調査では、約半数が治療を行ったかどうかに関わらず回復しているが、残りの半数は最低1回は再発し、およそ15%は慢性的な再発を繰り返す[136]。
[編集] さまざまな「うつ病」
[編集] 子どものうつ病
子どもの大うつ病の時点有病率は児童期で0.1から2.6パーセント、青年期で0.7から4.7パーセントとされている[137]。
NICEガイドラインによると、2005年4月にヨーロッパ医薬品評価委員会はSSRIとSNRIについて、子供と青年には処方すべきではない(承認適応症を除くがこれは通常の抑うつは含まない)としている[138]。
[編集] 非定型うつ
通常のうつ病(メランコリー型うつ)は気分が落ち込む状態が長期にわたって持続して気分が明るくならないが、好きなことをしているときなどには気分が明るくなるようなタイプのうつ病は非定型うつといわれ、うつ病の半分程度は非定型とされる[139]。 ただし、非定型うつ病は双極性障害の初期症状と区別しにくいため、とりわけ親族に双極性障害患者がいる場合は、その可能性を考慮する必要がある。 非定型うつ病にはMAO阻害剤と呼ばれるタイプの特殊な抗うつ薬が有効であることが知られているが、この薬剤が課す広範な食事制限および激しい副作用のため、実際の臨床での利用は困難を極める。具体的には、豆やその加工品(醤油、味噌など)の摂取制限、チーズやチョコレートの摂取制限という、日本人にも西洋人にも向かぬものである。なお現在の日本ではその激しい副作用と扱いの難しさからパーキンソン病の治療にのみ使われている。[140]
[編集] 新型うつ
従前からの典型的なうつ病とは異なる特徴を持つものの総称で、現代型うつ病とも[141][142]。マスメディアなどで上記の非定型うつ病とほぼ同義に扱われることが多いが、専門用語ではなく、精神医学的に厳密な定義はない[143][144]。
「うつ病を患った人物の一覧」も参照
厚生労働省によれば、うつ病の12カ月有病率(過去12カ月に経験した者の割合)は世界では1~8%、日本では12カ月有病率が1~2%である[87]。
また、生涯のうちにうつ病にかかる可能性については、近年の研究[要出典]では15パーセント程度という報告が多い。 日本では、水野らによれば12ヶ月有病率は3.1パーセント[146]、川上[147]によれば生涯有病率6.7パーセントとされている[148]。
これらの研究結果から、ある時点ではだいたい50人から35人に1人、生涯の間には15人から7人に1人がうつ病にかかると考えられている。発生率は女性に比較的高いとされているが、閉経や子どもの自立による喪失体験、PMSによるストレス、男性より寿命が長いことによる配偶者との死別などによる部分も少なくはないと思われ、社会生活によるストレスが多い男性にも普通に見られる。
女性の発症率の高さについては、妊娠・出産期のω-3脂肪酸の枯渇がマタニティブルーや産後うつに関与している可能性がある[19]。
製薬会社のファイザーが2009年6月に10年以上の喫煙歴がある40 - 90歳の男女計600人を対象にインターネットで行った調査によると、ニコチン依存症の人の16.8パーセントにはうつ病やうつ状態の疑いがあり、ニコチン依存症でない人でのその割合は6.3パーセントのため、ニコチン依存症の人ほど、うつ病・うつ状態の可能性が高いと報告している[149]。また、典型的な抗うつ薬であるイミプラミンについて、喫煙者は効果が半減するとの指摘がなされている[150]。
ただし、喫煙者であって重症のうつ病の間の禁煙は医師との相談が必要である[151][152][153]。ニコチン離脱時にうつ病が再燃しやすいのである[154]。
ヴェネツィアフロリダのパニック発作
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