うつ病(うつびょう、鬱病、欝病)とは、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥(しょうそう)、精神活動の低下、食欲低下、不眠症などを特徴とする精神疾患である。
現在でこそ一般にも広く知れ渡っている病気であるが、以前は十分な理解が得られず「怠け病」などと呼ばれていた。
かつて日本で主流であったドイツ精神医学では、精神疾患を大きく外因性、内因性、心因性と原因別に分類し、うつ病はその中でも内因性うつ病という名で内因性疾患に分類されていた。
アメリカ合衆国の操作的診断基準であるDSM-IV-TRでは、「大うつ病性障害」(英語:major depression)と呼ばれている。majorを「大」と訳しているので誤解を生じやすいが、これは落ち込む程度の大、小のことではなく、「主要な」あるいは、「中心的な」という意味でのmajorである。「(小)うつは病気ではないが、社会生活に支障をきたすほどうつが悪化すると、これは精神疾患である。」という意味ではない。DSM-IV-TRでは、症状の重症度について別の基準で評価することになっている。
うつ病は、従来診断においては「こころの病気」である神経症性のうつ病と、「脳の病気」である内因性うつ病と別々に分類されてきたが、2010年現在多用されている操作的診断では原因を問わないため、うつ病は脳と心の両面から起こるとされている。
「脳の病気」という面では、セロトニンやノルアドレナリンの不足を原因とする仮説に基づく場合では、脳内に不足している脳内物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)の分泌を促進させる薬物治療を行う。これが日本国内では心療内科や精神科におけるうつ病治療の主流になっている。
日本うつ病学会では、厚生労働省からの依頼により、抗うつ薬の副作用をはじめとする薬物療法に関する諸問題を専門家の立場から検討し、適正な抗うつ薬使用法を提言するため、学会内に「抗うつ薬の適正使用に関する委員会」を2009年に設立している[1]。
あまり生活に支障をきたさないような軽症例から、自殺企図など生命に関わるような重症例まで存在する。うつ病を反復する症例では、20年間の経過観察で自殺率が10パーセント程度とされている。
なお、男女比では、男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいとされている[2]。
[編集] うつ病という言葉に関する注意
日本の精神医学界はドイツ精神医学が主流であったが、近年日本にもアメリカ精神医学が浸透し始め、従来診断と呼ばれるドイツ精神医学に倣った原因別分類ではなく、操作的診断と呼ばれる症状別分類で診断されることが多くなった。精神医学以外の医学では、一般に病気を原因別に分類する。例えば胸が痛いもののうち、心臓冠動脈の狭窄による心臓への虚血が原因で起こるものを狭心症と診断する場合がこれにあたる。しかし精神疾患は原因のわからないものが多いため、原因別に分類するより症状別に分類する方がより実際的であろうというのが操作的診断を行う側の立場である。この場合、胸が痛いもののうち痛みが一定期間続くものを"胸痛症"と呼ぶことになる。"胸痛症"という表現があるならば、そこには狭心症のほ� ��、肺塞栓や気胸など様々な疾患が含まれることになろう。逆に糖尿病で痛みを感じにくい患者に起こる狭心症は"胸痛症"には含まれないことになる。原因別に治療を行う内科など精神科や心療内科以外の身体科においてこれは実際的ではないので、"胸痛症"のような操作的病名は実際には使われない(使われる場合は○○症候群のように表現され、○○病という表現は用いられない)。
前述のように、症状別に診断した"胸痛症"と原因別に診断した狭心症は大きく違ったものであるが、それと同じように症状別Äに分類されたmajor depressive disorder(大うつ病性障害)などの操作的診断病名と、原因別に分類された内因性うつ病等の従来診断病名とは、同じうつ病であっても大きく異なる概念であると言える。
このことが専門家の間でさえもあまり意識されずに使用されている場合があり、時にはそれを混交して使用しているものも多い。そのため一般社会でも、精神医学会においても、うつ病に対する大きな混乱が生まれている。
漠然と「うつ病」と記載されている場合には、それが内因性うつ病、あるいはメランコリー親和性うつ病などと呼ばれた従来診断におけるうつ病のことなのか、抑うつが2週間以上続くなどの状態像で操作的に分類されたmajor depressive disorder(大うつ病性障害)などのうつ病のことなのか、ということを十分に意識して読む必要がある。
※この記事においても、操作的診断と従来診断のうつ病が混交して使用されているので注意が必要である。
うつ病の症状を理解するには、大うつ病についてのDSM-IVの診断基準を参照するとよい。
DSM-IVの診断基準は、2つの主要症状が基本となる。それは「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」である。精神症状と共に身体的な症状を生じる。身体的な症状は、診断に先立って訴えられることもある。
「:en:Major depressive episode」も参照
- 精神症状
- ボーっとすることが多くなり、口数が少なくなる。学校・会社・部活動では、休みがちになったり、不登校になる。集中力がなくなり、運動神経や記憶力が低下し、勉強ができなくなる。人の話を聞けなくなる。「どうせ自分なんか価値の無い存在だ」と考えるようになるなど、自尊心が低下する。「抑うつ気分」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどである。「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態である。この2つの主要症状のいずれかが、うつ病を診断するために必須の症状であるとされている。これら主要症状に加えて、「抑うつ気分」と類似した症状として、「自分には何の価値もないと感じる無価値感」、「自殺念慮・� �死念慮」、「パニック障害」などがある。
- 身体的症状
- 頭が割れるような頭痛。不眠症などの睡眠障害。吐き気。少しの動作で疲れるようになってしまう。消化器系の疾患で急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍。摂食障害に伴い、食欲不振と体重の減少あるいは過食による体重増加。全身の様々な部位の痛み(腰痛、頭痛など)訴えとしては「食欲がなく体重も減り、眠れなくて、いらいらしてじっとしていられない」もしくは「変に食欲が出て食べ過ぎになり、いつも眠たく寝てばかりいて、体を動かせない」というものである。
- うつ病の約8割に不眠が、1割に過眠が見られる[3]。
- その他
- 人付き合いを避けるようになるなど、対人関係が悪化し、さらに病気を悪化させるという悪循環が起きやすい。
うつ病の成因論には、生物学的仮説と心理的仮説がある。心理的仮説は生理的な理由付けが無いため、科学的根拠に欠けるとの批判が存在するが、生物学的仮説は2010年現在は脳と精神の関係がほとんど解明されていないこともあり、治療という面でも初期の段階にある。ただし、統合失調症などに幾分か有効な薬が開発されているが、2010年現在はうつ病の症状を抑える程度の薬しか存在しない。いずれの成因論もすべてのうつ病の成因を統一的に明らかにするものではなく、学問的には、なお明確な結論は得られていない。最近では、ω-3脂肪酸との関連が指摘されている。
治療場面では、なぜうつ病になったかという問いよりも、今できることは何かを問うべきである。この意味で、成因論は学問的関心事ではあるが、現時点では臨床場面での有用性は限定的である。
生物学的仮説は、薬物の有効性から考え出されたモノアミン仮説、死後脳の解剖結果に基づく仮説[4]、低コレステロールがうつおよび自殺のリスクを高めるとの調査結果、MRIなどの画像診断所見に基づく仮説などがあり、2010年現在も活発に研究が行われている。モノアミン仮説のうち、近年はSSRIとよばれるセロトニンの代謝に関係した薬物の売り上げ増加に伴い、セロトニン仮説がよく語られる。また近年、海馬の神経損傷も話題となっている。ただ、臨床的治療場面を大きく変えるほどの影響力のある生物学的な基礎研究はなく、決定的な結論は得られていない。
うつ病とは何か?という理解は、偶然に効果が発見された抗うつ薬の発見とともに進歩してきた。抗うつ薬は、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質を増加させる作用を持つことが注目されている[5]。
うつ病では、神経伝達物質がうまく働かなくなっていると考えられている。うつ病は、脳の神経機能に変調が起きている病気であると考えられている[6]。
また、不安障害の一部であるパニック障害の患者は、50~65%に生涯のいつの時点かにうつ病が併存する[7]。
一方、心理学的・精神病理学的仮説としては、フーベルトゥス・テレンバッハの唱えたメランコリー親和型性格の仮説が有名である。これは、几帳面・生真面目・小心な性格を示すメランコリー親和型性格を持つ人が、職場での昇進などをきっかけに、責任範囲が広がると、すべてをきっちりやろうと無理を重ね、うつ病が発症するという仮説である。つまり鬱の原因は人生問題であるというものである。生活での悩みが鬱の原因になるという主張はことに反論を唱えるものはいないが決してすべてのうつ病がこの仮説に一致する訳ではない。例えば家族の一員の死などで鬱になる場合でも個人差があり回復に数年と言うケースも存在する。またまれに理由も無く深刻な鬱である場合もある。ただしこのような心理的仮説は鬱を生物学的� ��捕らえ治療を行うという考え方に対する疑問として掲示される仮説である。
また、認知療法の立場からは、人生の経験の中で否定的思考パターンが固定化したことがうつ病と関連しているとされている。
物質誘発性気分障害はうつ病に類似していおり、長期間のレクリエーション薬物使用・薬物乱用・抗不安薬や睡眠薬の離脱症状に起因する[8][9]。
[編集] 生物学的仮説:モノアミン仮説
1956年、抗結核薬であるイプロニアジド、統合失調症薬として開発中であったイミプラミンが、KlineやKuhnにより抗うつ作用も有することが発見された。発見当初は作用機序は明らかにされておらず、他の治療に使われる薬物の薬効が偶然発見されたものであった。その後イプロニアジドからモノアミン酸化酵素(MAO)阻害作用、イミプラミンにノルアドレナリン・セロトニンの再取り込み阻害作用があることが発見された。その後これらの薬物に類似の作用機序を持つ薬物が多く開発され、抗うつ作用を有することが臨床試験の結果明らかなった。よってモノアミン仮説とは、大うつ病性障害などのうつ状態は、モノアミン類、ノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の低下によって起こるとした仮説である。
しかし脳内の病態が明らかにされていない以上、逆の病態が大うつ病性障害の根本原因と結論付けることは出来ず、あくまで仮説にとどまっている。そもそも脳そのものの神経伝達物質の動きは見ることができないという技術的限界がある。
さらにこの仮説に対する反論としては、シナプス間隙のノルアドレナリンやセロトニンの低下がうつ病の原因であるとすれば、抗うつ薬は即効性があってしかるべきである。うつの改善には最低2週間要することを考えると、この意見は一理あると言える[10][11]。
[編集] 生物学的仮説:脳の海馬領域における神経損傷仮説
近年MRIなどの画像診断の進歩に伴い、うつ病において、脳の海馬領域での神経損傷があるのではないかという仮説が唱えられている[12]。そして、このような海馬の神経損傷には、遺伝子レベルでの基礎が存在するとも言われている[13]。
また、海馬の神経損傷は幼少期の心的外傷体験を持つ症例に認められるとの研究結果から、神経損傷が幼少期の体験によってもたらされ、それがうつ病発病の基礎となっているとの仮説もある。コルチゾール(cortisol) は副腎皮質ホルモンであり、ストレスによっても発散される。分泌される量によっては、血圧や血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊をもたらす。また、このコルチゾールは、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、脳の海馬を萎縮させることが、近年心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の脳のMRIなどを例として観察されている[12]。心理的ストレスを長期間受け続けるとコルチゾールの分泌により、海馬の神経細胞が破壊され、海馬が萎縮する。心的外傷後ストレス障害(PTSD)・うつ病の患者にはその萎縮が確認される[14]。
[編集] 栄養学的仮説:ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸のアンバランス仮説
ヒト及びその他の動物にとっては、体内でω-6脂肪酸(リノール酸等)とω-3脂肪酸(α-リノレン酸、DHA等)の2系統の多価不飽和脂肪酸を合成できないので必須脂肪酸となっている。ω-9脂肪酸系統の不飽和脂肪酸は18:0のステアリン酸から18:1のオレイン酸に変換することができて体内で合成できるので必須脂肪酸ではない。うつ病が20世紀になって増加しているがω-6脂肪酸を多く含む植物油の摂取が増加したことと軌を一にする。うつ病患者においてはω-6脂肪酸からアラキドン酸を経て生成される炎症性の生理活性物質であるエイコサノイドのレベルが高いということが示されている[17][18]。シーフードをたくさん摂取するところほど母乳内のドコサヘキサエン酸(DHA)は高く、産後うつ病の有病率は低かった。母体から胎児への転送により、妊娠・出産期には母親には無視できないω-3脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある。また、うつ病の深刻さと赤血球中のリン脂質におけるω-6脂肪酸のアラキドン酸とω-3脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)の比率の間に有意な正の相関が認められた。さらに、健常者と比較してうつ病患者はω-3脂肪酸の蓄積量が有意に低く、ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の比率は有意に高かったことが指摘されている[19]。 DHAは精液や脳 、網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。DHAは脳内にもっとも豊富に存在する長鎖不飽和脂肪酸で、エイコサペンタエン酸(EPA)は脳内にほとんど存在しない[20]。なお、DHAは脳関門を通過できるが、EPAを含めた他のω-3脂肪酸は脳関門を通過することができない[21]。DHAの摂取は血中の中性脂肪(トリグリセライド)量を減少させ、心臓病の危険を低減する。また、DHAが不足すると脳内セロトニンの量が減少し、多動性障害を引き起こすという報告がある[22]。アルツハイマー型痴呆[23][24]やうつ病などの疾病に対してもDHAの摂取は有効であるといわれている。一方で、DHA投与がアルツハイマー病の症状を改善しなかったとの報告がある[20]。
細胞膜は流動性を持ち、脂質や膜タンパクは動いている。この流動性は膜の構成物質で決まる。たとえば、リン脂質を構成する脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)に影響され、二重結合を持つ炭化水素が多いほど(二重結合があるとその部分で炭化水素が折れ曲がるので)リン脂質の相互作用が低くなり流動性は増すことになる[25]。例えばDHAは不飽和度が極めて高く細胞膜の流動性の保持に寄与している。神経細胞は、軸索や樹状突起などの凹凸の多い入り組んだ構造を有しているため、膜成分が極端に多くなっている[26]。DHAは、神経細胞の細胞膜を柔らかくし、樹状突起を増やしたり、軸索の成長を促して脳・神経系の健全性を保っている[27]。マウス動物実験では、ω-3脂肪酸の不足でCB1Rカンナビノイド受容体の機能喪失に引き続いて、報酬系に関わるシナプス可塑性が妨げられる報告がある[28]。
ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の望ましい摂取比率は1:1から1:4であると言われている[29][30]。海外で利用される代表的な食用油の多くが高い比率のω-6脂肪酸が含まれていてω-3脂肪酸があまり含まれていない[31]。日本ではω-3脂肪酸をバランス良く含んでいるキャノーラ油をはじめとした菜種油が食用油の全生産量の6割を占めており[32]、日本ではω-3脂肪酸の豊富な海産物が多く消費されているため、海外諸国に比べれば日本の食品中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は高いと推定される。食事中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率は、日本の妊婦では1:3[33]、日本の成人では1:4、アメリカでは1:8の比率となっている[34]。後述するように、WHOの統計では、うつ病の障害調整生命年は、日本が世界最低レベルであり、アメリカが世界最高レベルとなっている。なお、近年では日本の20歳以下の若年者の食事中のω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率が低下してきており、厚生労働省のデータでは1:5[35]、奥山のデータでは1:7、と指摘されており、うつ病の原因がω-3脂肪酸とω-6脂肪酸のアンバランスであるならば、成年に比較して若年者のうつ病の増加が懸念されるところである[34][33][36]。
[編集] 心理学的仮説:病前性格論
心理学的成因仮説の代表は、病前性格論である。うつ病にかかりやすい病前性格として、主に、メランコリー親和型性格、執着性格、循環性格、が日本では提唱されている(米英圏では強迫性)。しかし、近年はうつ病概念の拡大や社会状況の変化に伴い、下記の性格に該当しないうつ病患者が増加している。
- メランコリー親和型性格は1961年にテレンバッハが提唱したもので、秩序を愛する、几帳面、律儀、生真面目、融通が利かないなどの特徴を持つ。主として反復性のないうつ病を呈するとされる。
- 執着性格は1941年に下田光造が提唱したもので、仕事熱心、几帳面、責任感が強いなどの特徴を持つ。反復性うつ病ないし躁うつ病の病前性格の1つであるとされる。
- 循環性格はエルンスト・クレッチマーが提唱したもので、社交的で親切、温厚だが、その反面優柔不断であるため、決断力が弱く、板挟み状態になりやすいという特徴を持つ。躁うつ病の病前性格の一つであるとされる。
[編集] 薬物およびアルコールの使用
「気分障害#薬物誘発性気分障害」も参照
DSM-IVでは、その原因が「物質の直接的な精神的作用」に起因すると判断される場合は、気分障害の診断を下すことはできないとしている。大うつ病に似た症状が物質乱用や薬物有害反応によって起こされていると判断される場合、それは"substance-induced mood disturbance"と定義される。 アルコール依存症または過度のアルコール消費は、大幅に大うつ病の発症リスクを増加させる[37][38][39][40][41]。
また、逆にうつ病が原因となってアルコール依存症になる場合もある[40][42][43]。
アルコールと同様に、ベンゾジアゼピンはうつ病発症リスクを増加させる。この種類の薬は不眠・不安・筋肉痙攣に広く使用されている[9][44]。 このリスク増加はセロトニンとノルエピネフリンの減少など、薬物の神経化学への効果が一因である可能性がある。ベンゾジアゼピン系の慢性使用も抑うつを悪化させ[45][46]、うつ症状は長期離脱症候群の1つである可能性がある[9][47][48][49]。 ただし、うつ病に伴う睡眠障害に処方される睡眠導入剤には、ハルシオン、デパス、フルニトラゼパム、エリミン、ランドセンなどベンゾジアゼピン系の薬が多い[50][51][52][53]。 JCPTDでは、薬物治療急性期には抗うつ効果発現までのベンゾジアゼピン系薬物処方は有用であるが、依存性のため長期投与は推奨していない[54]。
[編集] 臨床評価
「:en:Rating scales for depression」も参照
大うつ病の診断を行う前に、一般的に医師によって医学的検査と幾つかの調査が他の症状を除外するために行われる。血液の甲状腺刺激ホルモン(TSC)とチロキシン測定によっての甲状腺機能低下症除外、基礎電解質と血中カルシウム測定で代謝障害の除外、全血球算定(赤血球沈降速度ESRを含む)により全身性疾患や慢性疾患の除外など[55]。 薬物の副作用やアルコール乱用も同様に除外される。男性の抑うつの場合、テストステロンのレベル測定によって性腺機能低下症も除外される[56]。
客観的認知についての問題が老人の抑うつに現れることがあるが、それはアルツハイマー病などの痴呆性疾患の可能性がある[57][58]。 認知テストと脳画像イメージによって認知症とうつ病を区別する助けとなる[59]。 CTスキャンは精神病患者の脳病理を除外することができ、また異常兆候を迅速に判断できる[60]。 生物的テストでは大うつ病の診断を行う方法はない[61]。 一般的に、医学的な問題がない限りその後検査を繰り返す必要はない。
2011年、広島大学大学院などの研究グループが客観的にうつ病を診断できる指標となる物質を発見したことが、米国科学誌プロスワン電子版にて発表された[62]。
[編集] 「うつ状態」と「うつ病」
うつ状態を呈するからといって、うつ病であるとは限らない。うつ状態は、本当の「気分障害」に該当するもの以外にも、次のような原因によって引き起こされる。
また、下記のような器質的疾患からうつ病・うつ状態となることもあるので、診察時には注意を要する。
こうした様々なうつ状態のうち、臨床場面で大うつ病エピソードとして扱われるのは、DSMの診断基準[64]に従って、「死別反応以外のもので、2週間以上にわたり毎日続き、生活の機能障害を呈している。」というある程度の重症度を呈するものである。